税務上の株価算定方法
M&Aなどの第三者との価格は、株価は両者の交渉の上に成り立った取引価格であり、市場評価が適正なものとして、税務上基本的には問題視されません。しかし、同族株主間やグループ会社間での取引などでは、恣意的に株価を低く決定されることが多く、また稀に高くされることがあるため、その場合には税務上の財産評価基本通達をベースとした算定方法で算出した金額を時価として扱い、この時価と取引価格との差額に「みなし譲渡課税」、「みなし配当課税」、「みなし贈与課税」等が課税されます。
税務上の算定方式は、同族株主の有無、株式取得者の属性、評価会社の規模等でも、算定方式が変わるため、本稿では、この税務上の算定方式がどのように規定されているのかを順を追って解説します。
株主区分の判定
先ずは、下記の判定フローにおいて、株主区分の判定をします。
なお、判定は、株式取得前ではなく取得後の時点を基準にしている点、発行済株式総数における保有株式数ではなく、議決権数において行う点に注意が必要です。
判定を行った、原則的評価方式及び特例的評価方式には下記のようなそれぞれの算定式があります。
算定方式 | 1株当たりの金額算出計算式 | |
原則的評価方式
(同族株主が取得する場合) |
類似業種批準方式
(事業の種類が同一又は類似する複数の上場企業の株価の平均値に比準する方式) |
①評価会社の1株当たりの配当/類似業種の1株当たりの配当・・・A
②評価会社の1株当たりの利益/類似業種の1株当たりの利益・・・B ③評価会社の1株当たりの簿価純資産/類似業種の1株当たりの簿価純資産・・・C 類似業種の株価×(A+B×3+C)/ 5×斟酌率 ※斟酌率は大企業は0.7、中会社は0.6、小会社は0.5 |
純資産価額方式
(評価会社が仮に解散した場合に、株主にいくら正味の配当がされるかで算出する方式) |
(純資産+含み益ー含み益×38%) / 発行済株式総数
※発行済株式総数は自己株式は控除 |
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大会社と中会社の評価方法を併用 | 会社規模により併用する数字の割合が変わってくる。詳細は下記に記載。 | |
特例的評価方式
(同族株主以外の第三者が取得する場合) |
配当還元方式
(株主が受け取る1年間の配当金から、元本である株式の評価額を算出する方式) |
(1株当たりの年配当金額/10%)×(1株当たりの資本金額等の額/50円)
※年配当金額とは、直前期以前の2年間の平均 |
会社区分の判定
上記のフローにより、原則的評価方式に判定された場合、類似業種批準方式、純資産価額方式、及び純資産価額方式が該当しますが、判定企業の規模によりそれぞれの算定方式の利用方法が変わります。
具体的には、下記の表から算定企業の規模を判定します。
判定表の見方は下記の順で該当値を探します。
①直前期末以前の従業員数が100人以上の場合は、総資産額等に関わらず、直ちに大企業と判定されます。
②総資産価額と従業員数が該当するものの内、いずれか低い方を選択します。
③売上高が該当するものと、②の結果の内、いずれか高い方を選択します。
【具体例】
例えば、業種が小売・サービス業で、総資産価額が6億円、従業員数が25人、売上高が10億円の場合は、下記の判定となります。
①従業員数は100人以下なので、直ちに大企業とはならない。
②総資産価額は、6億円で中会社の中に該当、従業員が25人で中会社の小に該当するため、低い中会社の小を選択。
③売上が10億円で、中会社の中に該当し、②と比較し中会社の中が高いため、事例の企業は中会社の中が判定結果となります。
会社規模による算定式の選択
算定企業の規模の判定により、原則的評価方式のそれぞれ利用できる算定式の割合は下記の通り規定されています。
会社規模 | 算定式 |
大会社 | 類似業種比準価額 または 純資産価額 のいずれか低い方を選択 |
中会社の大 | 純資産価額 または、次の折衷方式
(類似業種比準価額×0.9+純資産価額×0.1) |
中会社の中 | 純資産価額 または 次の折衷方式
(類似業種比準価額×0.75+純資産価額×0.25) |
中会社の小 | 純資産価額 または 次の折衷方式
(類似業種比準価額×0.6+純資産価額×0.4) |
小会社 | 純資産価額 または 次の折衷方式
(類似業種比準価額×0.5+純資産価額×0.5) |
※一般的には、純資産価額>類似業種比準価額、純資産価額>折衷方式という関係にあります。
以上で、判定された計算式で算出された株価が税務上、時価として取り扱われます。
特定評価会社の算定方式
一般的な企業の算定は以上にあるようなフローで株価は求められますが、ある特定の会社の場合には、例外的に算定方式が規定されています。
具体的な特定の会社とは下記のようなものを言います。
①開業後3年未満の企業(財基通189−4)
開業後3年未満の企業とは、文字通り、開業後3年未満の企業と、類似業種比準方式における「1株当たりの配当金」「1株当たりの利益金額」及び「純資産価額」の内、いずれかの金額が0となっている企業を指します。これに該当する場合には、原則、純資産価額方式によって評価され、株式取得者が同族株主以外の少数株主であれば、特例的評価方式による評価がされます。
②開業前または、休業中の企業(税基通189-5)
開業前または、休業中の企業の株価は、純資産価額方式により評価されます。
③土地保有特定会社(財基通189-4)
総資産の大半が土地である企業を指し、これに該当した場合には会社の規模に関わらず、純資産価額で評価されます。そのため、土地保有特定会社に該当しない場合よりも株価が高くなることがあります。
④株式保有特定会社(財基通189-3)
総資産に占める株式等の割合が50%以上を占める企業を指し、これに該当した場合には会社規模に関わらず、原則、純資産価額で評価されます。そのため、株式保有特定会社に該当しない場合よりも、株価が高くなることがあります。