支援前

 A地方の温泉旅館であるS社は、過去の大規模な設備投資によって過剰債務状態に陥っていたところ、市場環境の悪化により財務状況はさらに悪化し、その結果、金融機関から競売申立てを受けるに至った。競売申立てにより、これ以上単独での事業継続に著しい支障をきたすことは明らかであったため、スポンサーによる支援のもとでの事業再生が必須の状況となった。

 しかしながら、当時の市場環境はA地方の風評被害も重なり冷え込んでおり、スポンサーを探すのは非常に困難であるだけでなく、S社は設備更新も滞っていることも影響し売上の減少が深刻であり、営業CF自体がマイナスであったことから、仮にスポンサーが見つかったとしても民事再生などの法的手続きを行うことは大きなリスクが伴った。

支援内容

 スポンサー選定は入札(クローズドビッド)の方式で行うこととなったが、スポンサー候補者を国内で探索することは困難であったため、海外の投資家、特に当時急速に増えていた中国観光客を想定して中国系の投資家にも声をかけた。その結果、唯一入札に至った中国企業がスポンサー候補者となることとなった。

 かかる結果を踏まえ、各金融債権者とも協議の上、当該中国企業による支援を受ける方針を決定し、競売手続きは一旦取下げられることとなった。

 スポンサーを前提とした再生スキームについては、当初、事業劣化を防ぐ観点から法的手続きを利用しない方法も検討されたが、債権処理手続きの公正性を担保したいという債権者の意向と、権利関係が必ずしも明瞭ではなかった旅館事業の簿外負債リスクをヘッジする観点から、プレパッケージ方式による民事再生手続きを利用することとなった。ただ、同時に、民事再生手続きを利用するとしても、事業毀損が著しい状況にあったことから、事業に与える影響を最小限にしたいという意向もあり、早期に手続きを終結し事業を正常化する必要もあった。

 この点、本件は金融債権者が非常に少数であり、かつ、手続きへの協力も得られる状況であったこと、金融債権者以外の債権者はほぼ少額の取引債権者であること、などの特徴があった。

 このような状況に基づき、以下の方針によって民事再生手続きを進めていくこととなった。

  • 金融債権以外の債権者については少額弁済の手続きを利用して早期に弁済を行う
  • 民事再生手続き開始決定後すみやかに関係者への説明・調整を行い、裁判所の許可を取った上で、会社分割の手続きを用いてスポンサーへ事業を移管する
  • 残った金融債権については同意再生の手続きを利用して早期に民事再生手続を終結する。

 同意再生は過去にほとんど例がなく、短期間にすべての関係者への説明・調整を行うというのは非常に困難なタスクであった。しかしながら、旅館という事業の特性上取引関係者は比較的近隣のものが多かったこと、債権カットが必要となる金融債権者の数は少なく事前に調整済みであったことから、円滑に手続きは進行し、民事再生手続き開始申立後1ヶ月で会社分割が完了し、その3ヶ月で同意再生手続きは終結するに至った。

 また、オーナー家の保証債務についても同様に民事再生手続きにより処理された。

支援後

 過剰債務が解消され、資金不足のために滞りがちだった設備更新もニューマネーにより行えるようになった結果、売上も回復し、人員等の削減もないまま人気旅館へと復活した。